第5学年「流れる水の働きと土地の変化」の教材分析【理科専科.com】

1.おもしろい単元だけど関係性が複雑・・・
「わ〜!!けずれたよ。」「しん食だね」と現象がはっきりしていて、校庭の築山などで行う場合、規模の大きな実験になり子どもたちに大人気の単元ではないでしょうか。しかし、この単元の因果関係は複雑で、土地の傾斜や流れる川の形状、水量と流速、石の大きさや硬さなどにより、流れる水の働きの大きさが変化し、土地に変化を与え長い年月を経て地形を形成していきます。この因果関係がわからないと「カーブの外側はしん食されて、内側はたい積する」と現象だけを覚えてしまうことになってしまうこともあります。
なぜこんなに複雑なのか。それは学習指導要領の系統表を見るとわかります。第5学年「流れる水の働きと土地の変化」は、地球領域の中でも「地球の内部と表面の変動」の内容で6年生「大地のつくりと変化」につながる単元です。単元名としてよく付けられている「流れる水のはたらき」だけを学習するのであれば「はたらき」ですので、エネルギー領域になります。このエネルギー領域の学習と地球領域の学習が混在している単元なので、非常に複雑な関係性をもっています。
2.何が何と関係しているのか整理してみると
その複雑な関係性を私なりに紐解いて図式化してみました。下記の図をご覧ください。

① 流れる水の働きと土地の変化の関係性
まずは、流れる水の働きには侵食・運搬・堆積の3つの作用があること。そして、その作用によって土地の変化が起こること。この関係性が1つ目の関係性です。
② 流れる水の働きの大きさと働きを変化させるエネルギー的な関係性
流れる水の働きは運動エネルギーで考えることができるので、質量と速さで考えることができます。つまり、水の量と流れる速さです。水の量と流れる速さの両方かそのどちらかが増すと、流れる水の働きの侵食・運搬の働きは大きくなり、堆積の働きは小さくなります。水の量と流れる速さの両方かそのどちらかが減ると、流れる水の働きの侵食・運搬の働きは小さくなり、堆積の働きが大きくなります。エネルギー領域の主たる見方・考え方である量的・関係的な見方です。これが2つ目の関係性です。
③ 質量・速さとそれを変化させる条件との関係性
②で考えた水の量と流れる水の速さを変化させる条件が何なのか。学習指導要領では、「雨が短時間に大量に降ったり、長時間降り続いたりしたとき」が取り上げられ、それ以外は特に記載はありません。つまり、水の量が増え水流が速くなった時のエネルギーの増加です。しかし実際は、カーブや直線などの川の形状や上流・下流の傾斜の違いも水の量や流れる水の速さを変化させる条件となります。この条件とエネルギーの関係をどこまで扱い、子どもに表現してほしいと望むのかは指導者の裁量になってきます。ここもエネルギー領域になります。
④ 実際の川に流れる水の働きによって土地(石の形や地形)がどのように変化するのかの関係性
実験用川で考えてきたものの空間を広げ、実際の川ではどのような石の形や地形になっているのかを考える関係です。地球領域の主たる見方・考え方である時間的・空間的な見方を働かせる関係性です。小さい空間を大きな空間に広げ、実験用川で起きている出来事を本物の川にまで空間的に広げていきます。その時に、上流・下流という分断された見方ではなく、一本の川として見ることも大切です。また、実験での短い時間の土地の変化を地球規模の長い時間に延ばしながら考えていきます。
⑤ 大雨による増水と急激な土地の変化による災害との関係性及びそのための防災
④の次は、時間的・空間的な見方を少し変えていきます。流れる水の働きによる短時間での急激な土地の変化が水害を生み出すという関係性です。ここでは、空間的な見方を一本の川から流域面積にまで広げることと、短時間で起きる変化を防ぐための長期的な防災という見方が必要になります。
3.単元デザインが大切
これまで説明してきたように、これだけ複雑な単元だからこそ、指導者自身が関係性を意識しながら条件を制御し、単元をデザインしていくことが大切になります。初めからカーブの内と外の現象と出合うことは③の関係まで理解できないと説明ができません。なので、まだ流れる水の働きにはどのようなものがあるのかがわかっていない子どもにとって、初めての実験結果から、なぜ外側では侵食・運搬の働きが大きく、内側が堆積の働きが大きいのかを考えていくことは、かなり難易度が高くなるということです。
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