「てこの規則性」で深い理解につなげるための「スーパーくぎ抜き」【理科専科.com】

「てこの規則性」の単元の特性は何だと思いますか。特性の一つに、学習したことと日常生活との関連性に子どもたちが気付きやすいことが挙げられます。どういうことかというと、てこの規則性を利用した日常生活の道具が子どもたちの身近に多く存在しているということです。その道具を教材として単元内のどの場面で、どのように取り上げるのかを工夫することで、子どもたちが問題解決を通して見いだしたてこに関するきまりを、より深い理解へとつなげていくことができます。その一つのアイデアとして、「スーパーくぎ抜き」という教材と、その取り上げ方を紹介します。
1 「スーパーくぎ抜き」の単元内での位置づけ
単元の導入部では、重い荷物をそのまま持ち上げたり、実用てこを用いて持ち上げたりする活動を共通体験として取り入れます。その活動の中で、子どもたちから「てこを使うと、そのまま持ち上げるよりも軽く持ち上げられた。」「でもここを持つと、逆に重く感じるよ。」等の意見が挙がるので、これらの意見を整理し「何によって、てこのおもりを持ち上げる手ごたえが変わるのだろうか。」という問題を作ります。子どもたちは、力点の位置を変えたり、作用点の位置を変えたりしながら実験を行い、最終的に「支点からの距離によって、てこのおもりを持ち上げる手ごたえが変わる」という結論を導出することでしょう。その後、一般的な流れとしては実験用てこを用いたつり合いのきまりの学習に進むわけですが、その前にスーパーくぎ抜きを用いた本学習を位置付けます。
2 「スーパーくぎ抜き」を用いた学習の展開①
先の結論導出後、日常生活の中に、学習したことと関係のありそうなことはないか、考える時間を設定します。すると、「くぎぬき」「はさみ」「ステープラ」などがてこに関係あるのではないかという意見が挙げられます。挙げられた道具の中から、まずは「くぎぬき」を取り上げ、この道具が本当にてこの規則性を利用した道具であるのかをみんなで考えていく時間とします。「くぎぬき」がてこであることを証明するには、どうしたらよいでしょうか。一つは「くぎぬき」の中に支点、力点、作用点となる部分が存在すること、もう一つは支点からの距離によって手ごたえ(くぎを抜くときの手ごたえ)が変わることを実証できればよいのです。このことを学級内で確認し、活動に入ります。支点、力点、作用点が存在することの確認は、下の写真のように、該当部にシール等を貼るなどするとよいでしょう。

その後、くぎ抜きを用いて木材等に打ち込まれたくぎを実際に抜いていきますが、その前にくぎ抜きを使わないで素手で抜けるかを試し、全く抜ける気配がないことを確認する手続きを踏むと、小さな力で大きな作用を生んでいることがより実感できます。全員がくぎを抜く活動を終えた後に、「どうしてくぎ抜きを使うとくぎが抜けるのか」を説明する時間をとります。この場面において、子どもたちが実用てこを用いた学習したことと、くぎ抜きでくぎが抜けることとを関係付けながら思考し、「くぎ抜きは支点から力点までの距離が長く、支点から作用点までの距離が短くなっているため、くぎが抜ける」と説明できることがとても大切です。この後の「スーパーくぎ抜き」の学習のためにも十分に時間をとり、またグループで話し合うなどして、上記の説明ができるよう支援しましょう。
3 「スーパーくぎ抜き」を用いた学習の展開②
くぎのサイズが大きめなものを選ぶと、くぎ抜きを用いてくぎを抜くことができるとはいえ、子どもの力ではかなり苦戦します。そこで、子どもたちの中から「けっこう抜くのが大変だった。」等のつぶやきが出るので、「じゃあ、もっと小さな力で抜くことはできないかな。」と投げかけます。(子どもたちの方から声が挙がることもあります。)これまで学習してきたことを基にして、くぎ抜きをバージョンアップさせるとしたらどうするかという視点で考えるよう促しましょう。すると、「支点から力点までの距離が長い方が小さな力で抜けるはずだから、持ち手の部分をもっと長くすればいいんじゃない?」という意見が聞こえてきます。「じゃあ試してみよう!」という話になりますが、何を使ってくぎ抜きの持ち手の部分を長くしたらよいかが問題です。実はうってつけの道具があるのです。

この写真にあるように、実用てこの棒の両端の黒いゴムのパーツは取り外すことができ、取り外すことによって、筒状の長い棒にすることができます。その筒状の棒を、くぎ抜きの持ち手の部分にはめ込むと、支点から力点の距離を1m以上にすることができます(下の写真参照)。

そして棒の先端を持ってくぎを抜くと、指一本の力で抜くことができるのです。やる前に子どもたちがイメージしていたよりもずっと軽い手ごたえでくぎが抜けることに、驚きと感動の声が挙がります。「すごい!」「もう1本抜きたい!」等の意見が続出します。また「他の道具はどうなっているのだろう!」と、さらなる問題解決への意欲をもつ子も多いでしょう。この感動とともに、子どもたちのてこに対する理解は一気に深まっていきます。
自分たちが問題解決をして見いだしたてこの規則性を、日常生活の道具に当てはめて説明し、さらにその道具を自分なりに工夫して調整、制御することで、より深い理解につながっていくといえます。ぜひ実践されてみてください。
実験用てこの棒を活用して、バールを長くするアイデアは目から鱗でした!
僕はホームセンターで購入できる、一番大きいバールを買って子どもたちに見せましたが、費用対効果は、、、
力点を遠くすれば小さな力で抜けるはず!という仮説をしっかりと検証できる場を保証することって、改めて大切だなと思いました!
コメントありがとうございます。小さな力で大きな作用を生み出すことができるということをより強く実感できることは、この単元を学習する上での大きな価値ですよね。素材をいろいろ探している中でたまたま見つかったのが、この棒でした。今後も様々な教材や指導法を提案していけたらと思います。ありがとうございました。