おもちゃの仕組みを追究することで、概念としての知識を習得する ~4年「空気と水の性質」の実践~ 【理科専科.com】

令和6年12月25日、学習指導要領の改訂に向けた検討が、中央教育審議会に諮問されました。諮問された検討課題の一つに、「生成AIが飛躍的に発展する状況の下、個別の知識の集積に止まらない、概念としての習得や深い意味理解を促す学びのあり方」が挙げられました。
概念としての知識は、生成AIが扱えない部分とされています。では、普段の理科の学習の中で、概念としての知識の習得を促すには、どうすればよいのでしょうか。知識が概念化された子どもの姿として、「学習した自然のきまりが、日常生活に生かされていることに気付く」という姿が挙げられます。学習により習得した知識が理科室の中だけのものに止まらず、普段の生活場面にまで意識を広げ、自分の生活を豊かにしている道具等と結びついた時、その知識は生きて働く概念となります。
このような学びを促すアイデアとして、「おもちゃの仕組みを追究する場の設定」を紹介します。今回は4年「空気と水の性質」の学習において、写真①にあるような「消火器型の水鉄砲」の仕組みを追究する実践をお伝えしていきます。この教材は、インターネットやホームセンターなどで購入できる一般的なものです。
1.消火器型の水鉄砲の価値
消火器型の水鉄砲は、教材としてどのような部分に価値があるのでしょうか。まずはその仕組みを説明します。赤い部分に水を入れ、ふたをしめます。次に黒いハンドルを上下に動かすことで、容器内に空気が注入されます。最後に水色の部分にあるボタンを押すと、勢いよく水が出ます。つまり、容器内で圧縮された空気がもとに戻ろうとする力で水が飛び出す仕組みになっているのです。このような仕組みの水鉄砲は決して珍しいものではなく、他には鉄砲の形をしたものなどもあり、子どもたちにとって身近なものです。
この「子どもたちにとって身近である」ということが、大きな価値の一つです。理科室で学習したことと、子どもたちにとって身近で、さらに自分たちの生活を豊かに楽しくさせてくれるものがつながるからこそ、両者の結びつきが強固なものになるのです。子どもたちにとってよく分からない馴染みのない道具では、学んだことと結びつきません。
またハンドルを上下に動かして空気を注入する構造になっていることも価値の一つです。ハンドルを上下に動かすことによって空気を注入する他の道具は何か、と聞かれたら何を思い浮かべますか?「自転車の空気入れ」「ボールの空気入れ」などがすぐに思いつくことでしょう。未知の構造をしている物について追究していくとき、類似する道具がすぐに思い浮かぶということは、根拠のある予想や仮説を発想する手掛かりとなります。
さらにこの教材には、子どもたちの発想した予想や仮説を検証することができるという価値もあります。ハンドルを上下に動かせば動かすほど、水が強く出るという現象から、子どもたちは水鉄砲の仕組みについて予想や仮説を発想します。これが、実験によって確かめることができるという点が、科学的に問題解決をしていく理科という教科の教材として適していると言えます。具体的な検証の内容は、「2 学習の展開」にて紹介します。
2.学習の展開
本実践は、「空気と水の性質」の学習を行い、「空気には圧縮性があるが、水にはない」という知識を習得した後に行います。
まず本教材「消火器型の水鉄砲」を班に一つずつ配布します。次に水を入れた消火器型の水鉄砲のハンドルを10回動かした時と、30回動かした時とで、実際にボタンを押して水を出し、その様子を比較するという共通体験の場を設定します。水の出る勢いの違いに着目した子どもたちから、「どうしてだろう?」「どんな仕組みなんだろう?」というつぶやきが聞こえてきます。そのような気付きや疑問を整理する中で「消火器型の水鉄砲はどんな仕組みになっているのだろう。」という問いを見いだします。(もちろん児童の実態によって見いだされる問いの文言は異なります。)
予想や仮説を発想する場面では、どのような仕組みで共通体験した時のような現象が起こるのかを子どもたち一人一人が考えます。その際、ぜひ価値付けたい子どもの姿があります。それは既習事項を基に考えている姿です。「空気がたくさん入ることで押し縮められて…」「空気がもとに戻ろうとする力で…」と表現する子どもには「それどこで学習したっけ?」「この前の学習と関係があると思ったんだね!」などと価値付けていきましょう。子どもたちの「もしかしたら学んだことと水鉄砲を概念化できるのではないか」と考えている姿と言えます。
実験計画の立案、実験の実施の場面です。どのような実験をすればよいのか、子どもたちと考えていきます。前項で、「本教材は検証できる」と言いました。子どもたちがどんな予想・仮説を発想するかにもよるのですが、この教材は、「ハンドルを上下すると空気が注入される」「注入された空気が圧縮される」の二点を実験で確かめることができます。動画①②にあるように、「ハンドルの部分だけを取り外して、水中で上下に動かす」「ハンドルを上下に動かした後の容器全体の重さを量る」ことで上記二点を検証することができます。
実験後、結果から消火器型の水鉄砲の仕組みについて結論付けた後、ぜひやってほしいことがあります。それはイメージ図を描くということです。目に見えない自然事象を説明したり、表現したりするためのツールとして、イメージ図を子どもたちが使えるようにしておくことはこの先の学習のためにとても大切なことです。「今回学習したことを、つじつまが合うようにイメージ図に表してごらん。」と投げかけてみてください。
今回の実践は、子どもたちが自ら知識を概念化させていくための足場です。今回のような学習を経ると、次の単元の学習から、「仕組みはどうなっているかな」という目で、身近な道具に関わろうとする子どもが少しずつ見られ始めます。そのような姿を見逃さずに価値付けていくことで、あえてこちらから教材を提示しなくても、知識同士を結び付けて概念化を図る子どもが育っていくことでしょう。
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