色はどこへ行った? ~予想と違う結果から問いが生まれたクロマトグラフィー実践~

1.クロマトグラフィーを「色が分かれる実験」で終わらせない
ペーパークロマトグラフィーは、理科教材としてよく知られています。サインペンで描いた色に水を加えると、紙の上で色が分かれて広がり、思いがけない色が現れることがあります。
今回紹介する実践では、実験の仕組みや知識を先に教えるのではなく、子どもたちがまず予想を立て、実際に試し、予想と違う結果に出会うことを大切にしました。そして、その結果を友だちのものと比較する中で、自分から問いを生み出していく流れを意識しています。
本実践で比較を取り入れたのは、比較そのものを目的にするためではありません。予想と異なる結果に出会った直後に友だちの結果と見比べることで、驚きや違和感が「なぜ違うのだろう」という問いへと発展していくことをねらいました。
| 準備物 | 水性サインペン、コーヒーフィルター、少量の水、スポイト |
| 指導ポイント | 結果が出た直後に説明せず、友だちの結果と比べる時間を取ること |

写真1 水性サインペンで描いた模様に水を加え、色の広がり方を観察する子どもたち
2.まず予想をもたせる
授業の最初に、子どもたちへ次のように問いかけました。
T「サインペンでマークを書いた紙に水をつけると、どうなると思う?」
子どもたちからは、次のような予想が出ました。
C「そのまま広がると思う。」
C「少し薄くなるだけ。」
C「そのまま何も変わらない。」
この段階では、色がどのように変化するかについての説明は行いません。色が分かれることも伝えません。まずは、自分なりの予想をもつことを大切にしました。
次に、実際にコーヒーフィルターにサインペンで点や模様を描き、中央付近に少量の水を垂らします。すると、水が紙の中を広がりながら色を運び、模様が少しずつ変化していきます。
最初は一色に見えていたところから、別の色が現れます。紫色から青やピンクが見えてくるもの、緑色から黄色が現れるもの、黒色から青や茶色が見えてくるものもありました。
C「色が増えた。」
C「最初と違う色が出てきた。」
C「こっちは広がり方が違う。」
子どもたちは、予想と違う結果に出会ったことで、「えっ?」と立ち止まり始めました。
3.驚きの直後に比較の時間を置く
この実践で特に大切にしたのは、その驚きの直後に、複数の結果を見比べる時間を取ったことです。一人の結果だけを見ると、「きれいだった」で終わることがあります。しかし、友だちの結果と並べて見ると、子どもたちは違いに気づき始めます。
C「同じ色でやったのに違う。」
C「こっちは黄色が出ている。」
C「なんでこっちだけ色が分かれたの?」
活動の中心が、色の変化を楽しむことから、結果を比較して考えることへ移っていきました。
このとき、すぐに原理を説明しないようにしました。大人はつい、「色素が分かれている」「水への溶けやすさが違う」と説明したくなります。しかし、子どもたちが結果を見比べている途中で説明を始めると、せっかく生まれかけた問いが、大人の説明に置き換わってしまうことがあります。
そこで、次のように問い返しました。
T「どこが違うと思う?」
T「一番変化した色はどれ?」
T「最初の予想と比べてどうだった?」
T「友だちの結果と比べると、何が違う?」
このように問い返すと、子どもたちはもう一度結果をじっくり見直し始めました。自分の作品だけでなく、友だちの作品にも目を向け、色の広がり方や現れた色の違いを比べながら、その理由を考えようとしていました。

写真2 異なる水性サインペンの結果を見比べると、色の分かれ方や広がり方に違いが見える
4.問いが生まれてから説明する
その後、子どもたちから次のような問いが出てきました。
C「どうして色が増えるの?」
C「最初から入っていたの?」
C「色はどこへ行ったの?」
このタイミングで、子どもたちの疑問に応える形で、結果の見方について説明しました。
サインペンの色は、一種類の色だけでできているとは限りません。いくつかの色が混ざって作られていることがあります。水が紙の中を移動するとき、それぞれの色の成分によって進みやすさが違うため、混ざっていた色が分かれて見えることがあります。これがクロマトグラフィーの基本的な考え方です。
ただし、この授業で大切にしたかったのは、「クロマトグラフィー」という言葉を覚えることではありません。見えている色がすべてではないこと、調べると違いが見えてくること、比較することで新しい問いが生まれることを実感することです。
5.「色が広がった」から「なぜだろう」へ
この授業では、子どもたちが自然に比較へ向かうように活動を組み立てました。最初に予想をもたせ、結果に違いが出るように複数の色を用意し、すぐに説明せず、友だちの結果と見比べる時間を設けました。そうすることで、予想と違う結果に出会った驚きが、「どうして違うのか」という問いへつながっていきました。理科の授業では、知識を教えることが目的になりがちです。しかし、子どもたちが自ら知りたいと思ったとき、説明は初めて意味を持ちます。クロマトグラフィーという教材を通して改めて感じたのは、問いが生まれてから説明することの大切さでした。 ペーパークロマトグラフィーは、昔から親しまれている理科教材です。しかし、その魅力は色が分かれる現象を観察することだけではありません。「色が広がった」で終わるのではなく、「なぜだろう?」へ進む。その小さな問いこそが、理科の学びの入口になるのではないでしょうか。




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